![ファッションコレクターの肖像 Part.1[振付稼業air:man 杉谷一隆]](/wp-content/uploads/2023/10/top.jpg)
ファッションコレクターの肖像 Part.1[振付稼業air:man 杉谷一隆]
Profile of Fashion Addicts for FF Magazine
都内某所にある秘密の部屋。そこを開けると尋常ではない分量の古着が。ここはもちろん古着屋ではなく、日本を代表するコレオグラファー(振付師)集団である、振付稼業air:manの杉谷一隆さんが所有する私物を集めたシークレットスペース。どれも超貴重かつ、基本すべてご本人が着用する目的で集められたモノたちというのだからさらに驚き。本邦初公開となるそのコレクション部屋の秘密を聞きに行きました。
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集め続ける理由
「数えたことはないですが、1万点以上あるかもしれないですね」
膨大な量の古着の中でそう語るのは、コレオグラファー集団として20周年を迎えた振付稼業air:manのリーダー、杉谷一隆さん。振付稼業air:manは、日本を代表するコレオグラファーとしてCMやMV、コンサート、舞台、映画などで幅広く活躍。2008年にはユニクロの「UNIQLOCK」で世界三大広告賞を受賞、またアメリカのバンドOK Goの“I Won’t Let You Down”のMVにおいて、2015 MTV Video Music Awardsのベストコレオグラフィーを受賞するなど、数々の輝かしい経歴もお持ちです。主宰である杉谷さんは、大きな帽子とインパクトのあるアイウェア、そして個性的なファッションでたびたびメディアにも登場。そのスタイルにも注目されています。
この取材のちょうど1週間前に完成したという都内某所の秘密の部屋に通されると、そこには膨大なヴィンテージTシャツやレザー、シューズの数々。部屋はバックヤードを含めて4エリアに分かれており、もちろんすべてが杉谷さんの私物。
「小学校4年生のときに、お小遣いでカルチャークラブのボーイ・ジョージのTシャツを買って、それ以降も買い続けて一回も売ったことがなかったので、必然的にこの量なんです。最初のTシャツは『どうせ大きくなるんだから』とおばあちゃんに言われてXLを買っておいたので、今でも着てます(笑)。Tシャツだけは7千枚まで行ったので、最近少し処分して6千枚まで減らせました」
杉谷さんのコレクションの流儀は、一部の例外を除いて「自分で着られること」。単なるコレクションではなく、あくまで自分のファッションとして集めているため、ここは“コレクションルーム”であり、杉谷さんの“クローゼット”でもあるという点が特筆です。杉谷さんのヴィンテージコレクションは分けると大きく4つ。一つはシルクスクリーンなどによる手刷りのTシャツの圧巻のコレクションです。これは主に1970〜80年代のインディーズバンドや映画のTシャツで、[フィフスコラム]や[センチメンタル]といったブランドのものが中心。杉谷さんが買い始めた当初は数千円で入手できたものもあるそうですが、現在では少なくとも10万円以上が相場で、モノによっては数十万円するものもザラにあるそう。この部屋には貴重なものだけを厳選して保管しています。
「もともとハードコアパンクの音楽が好きだったのもあるんですが、手刷りのTシャツの魅力は、シルクスクリーンの版をこれでもかと使って作ったテクニック的な凄さや、もはやアート的な魅力まで生まれているグラフィックですね。当時100人くらいしかライブハウスに入らなかったようなイギリスのバンドでも、多色刷りでコストもかけているんです。中には12版刷りとかもあって、びっくりしますよ」
また、パンクシーンではお馴染みのガーゼシャツも相当量のコレクションが。Tシャツは近年に復刻されたものなどもあるそうですが、杉谷さんのこだわりはあくまで当時のオリジナルを見つけること。そのコミュニティでは、いつも濃いコレクターズトークが繰り広げられているそうです。コレクションを占める2つ目は、主に1960〜70年代のさまざまな古着。特に[イーストウエスト]というアメリカのブランドのクラフトレザーや、[ニックニック]というブランドのアロハシャツ、その他にはスカジャンや総柄セーターなど、今では考えられないようなこだわった作りやデザインをしているところに惹かれると杉谷さんは話します。
「もう一回作れるかと言ったらとても作れないような複雑なデザインのものが多いんですよ。当時は名もなきデザイナーや職人が作っていたものですが、今ではハイブランドの多くがそれを真似しています。こういったモノも〝出会い〞なので、自分のサイズのものが見つかると、買ってしまいますね。眺めているだけで楽しくなるんですよ」

仕事にも結び付いているコレクション
杉谷さんのコレクション群の3つ目は、マイケル・ジャクソンにまつわるアイテム。ここだけはマイサイズを度外視で、こまごまとしたグッズやキッズサイズまでを集めているそう。中には昔マイケルが登場したパチンコ台まで。
「マイケル・ジャクソンに関しては、オフィシャルからブートまでこだわらずに集めていますね。僕がダンスに興味を持ち始めたのも、小学校4年生の時に『スリラー』のMVを観たのがきっかけで、その後もダンスを一生懸命練習して真似もしました。缶バッジとかは小学生でも買えたので、必然的にこんな量にまでなっているんです」
そして杉谷さんのコレクションの中でも、個人的にカスタムすることで完成しているのが、鋲ジャンのコレクション。現在300着にまで膨れ上がっているという鋲付きのライダースジャケットは、古着で形の良いものを見つけては、自ら鋲を打ったり、絵や文字を描いて完成させているそう。
「もともとレザーが好きでハードコアパンクが好きだったので、中学生くらいから鋲ジャンは〝自分で作るもの〞でした。振付稼業エアーマンとして活動を始めた頃、メンバーに『ダンスや振付けとは縁遠い衣装を選ぼう』という話から、『それならスギさんが好きな鋲ジャンに』ということになりました。僕だけじゃなくメンバーも着ているので、これは〝仕事着〞でもあるんです。ライダースは動きにくいし、鋲を打ってさらに重くなっているのに、それで振り付けをするのが面白いかなって」
記憶を呼び起こす古着の魅力
杉谷さんは古着の魅力は“出会い”だと話します。
「まあ、自分の場合〝収集癖〞みたいなものもあるんでしょうけど、これを手放しちゃうと一生出会えないだろうなって思うので、欲しくなるんですよ。『これだ!』って思ったものは買っておかないと後悔すると思うので。かなりの量になりましたが、とりあえず行けるところまでは手元に置いておきたいなと思っています。あと2回くらい生まれ変わらないと全部着られないですけどね(笑)」
また、杉谷さんは古着との付き合い方についても独特な視点で語っていただきました。
「古着って眺めていると、これはどこどこで買った、誰から買った、いくらで買ったとかだけじゃなく、その時の天気だったり、気持ちだったり、細かいことまで思い出すんですよ。これだけの量があるので、忘れているものも多いですけど、そうやってふとその時の記憶が映画のワンシーンみたいに思い出すのが古着の好きなところですね」
最後に杉谷さんに、ファッションの面白さについてもお聞きしました。
「僕は着たい服を着ているだけなんですよ。単純に人が着ていないような、派手な格好が好きなんです。あとは例えば90年代ファッションが流行ったりしますよね。僕の世代からすれば、もう2巡くらいしているわけですが、それで若い子たちとそのことで話ができたりするし、時にはあえてその子に会うから90年代の服を着て行ったり。ファッションは人と会う時のコミュニケーションツールでもあって、そこがファッションの面白さだと思うんですよ」
ちなみに現在、杉谷さんや他数名のヴィンテージTシャツを集めた豪華本の出版や、スタイリストなどに開放する「古着屋稼業air:man」も準備中とのこと。
(この記事はRAGTAG発行の「FF Magazine Issue : 01」の抜粋記事です)

Profile
振付稼業air:man(ふりつけかぎょうエアーマン)
杉谷一隆(すぎたに かずたか)
振付稼業air:man 主宰。
1972年京都生まれ、福岡育ち。大学在学中に演劇を始め、2004年に菊口真由美と「振付稼業air:man」を結成。CM、MV、TV番組、映画、舞台、イベント、ワークショップなど様々なジャンルで活躍し、コレオグラファーとしての受賞歴も多数。
HP : http://www.furitsukekagyou-airman.com
Twitter : @furitsukekagyos
Instagram : @sugiairman
https://www.instagram.com/sugiairman
Creative Staff
Interview & Text : Yukihisa Takei(HIGHVISION)
Photography : TAWARA(magNese)