No.25 「同い年。1985年生まれのブランド」KAPITAL
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イマに続く1985年の40のコト。
RAGTAG創業と同じ1985年に誕生したブランドの魅力を、RAGTAGのバイヤーがご紹介。
今回は近年LVMHグループ傘下になったことでも話題となった日本ブランド、[キャピタル]について。
text : なんばパークス店 店長 MATSUMURA
photo : TAWARA(magNese) / edit : Yukihisa Takei(HIGHVISION)
Profile
MATSUMURA
なんばパークス店 / バイヤー
デザイナーズ、ヴィンテージ、グッドレギュラーなどジャンルや年代を問わず洋服を楽しんでいます。現在は自分独自のスタイルの構築や、生活を豊かにすることを洋服を通して探求中。洋服のことはもちろん、それにまつわる暮らしのこと、何でもお話しさせてください!
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高い技術を背景にスタートしたファクトリーブランド

[キャピタル]は1985年に岡山県倉敷市で創業した「有限会社キャピタル」というデニム製造ファクトリーのオリジナルブランド。設立当初の同社はブランド活動をしておらず、主に国内ブランドのOEM(委託元のブランド名で製品を製造)を行っていました。
当時OEMとして製造を請け負っていたのは、[45rpm]、[ハリウッドランチマーケット]、[ヒステリックグラマー]など、国内の有名ブランドたち。ブランド始動前から生産を行なってきたこのラインナップを見るだけでも、モノづくりへの信頼性の高さが見て取れます。
創設者の平田俊清さんは、1980年代をアメリカで過ごした経験があり、そこでヴィンテージデニムの魅力に影響を受けたそうです。一方で1980年代は日本のファッションシーンも本格的に盛り上がり始めた時代といえます。[コム デ ギャルソン]、[ヨウジヤマモト]、[イッセイミヤケ]を始めとする御三家に加え、[メンズビギ]などのDCブランドが名を馳せていた時代は、ヨーロッパやアメリカの文化も十分に取り入れつつ、西洋に反骨した精神としての「ジャパン」を押し出していく時代でもありました。
80年代から90年代にかけて日本のファッションブランドの高いモノづくりを支えてきたキャピタル社は、1995年には自社工場と同じ倉敷市の児島地区にて直営店をスタート。最初は自社で製作したデニムパンツを披露し、それからデニムパンツ以外のアイテムも展開を始めます。
[キャピタル]のアイテムは、主にワークウェアや世界の民族衣装、世界各国の文化を取り入れたデザインが特徴です。現在の[キャピタル]のデザインを手掛けるのは、創業者のご子息の平田希郎さんで、[キャピタル]のアイテムにアート性を融合。クラフトマンシップに軸を置いたクオリティの高さを背景に、世界へとその魅力を発信しています。特に近年は、海外の有名アーティストが着用したことで日本が世界に誇る有名ブランドとなりました。
私自身も普段から[キャピタル]のアイテムを愛用しているのですが、お客様や友人からも「どこのブランド?」と尋ねられることが多いです。それはアイテムの大小にかかわらず、こだわりをもって生産されているからだと感じています。
クラフトマンシップとユニークさが同居

[キャピタル]の中でも注目なのが、リメイクラインの「KAPITAL KOUNTRY」です。職人たちが手作業で加工を施しており、展開されるアイテム全てが1点物。代表されるデザインとしてバンダナプリント、ボーンデザインなどがあります。
特に日本で古くから存在する襤褸(ぼろ)をテーマにしたBOROというスタイルは格別です。日本特有のぼろ文化は、布を直しながら長く使うこと。江戸時代や明治時代には布は貴重品であったため、古くなった布や端切れを無駄なく再利用する文化が生まれました。補修をする際、布を補強するために刺し子などの技法が使われたのですが、このラインではそれを現代的にアレンジしています。[キャピタル]によるパッチワークや刺し子は、技術も高く、アート性の高い一着に仕上がっています。
このラインを象徴するアイテムが“センチュリーデニム”。刺し子を用いたデニムジャケットやパンツがありますが、アイテム名のセンチュリーは、丁寧に補修しながら履くことで100年以上着続けることができるという意味。ブランド精神が反映されたアイテムで、海外でも高い評価を受けています。

アイテムだけでなく、その販売方法もユニークな一面も併せ持つのが[キャピタル]の魅力。例えば全国のショップで購入時に貰うことができるショップカードは、全国のお店全て揃えることで、ノベルティがプレゼントされます。ノベルティはパジャマやぬいぐるみなど時期によって変化するので、それを楽しみにしているファンも多いそう。
また、コレクションにとらわれないアイテム展開も[キャピタル]のもう一つの魅力です。一般的なブランドはシーズンごとにテーマを設定し、その後ワンシーズンのみ展開することが多いのですが、[キャピタル]はひっそりと継続してアイテム展開していることがあります。オンラインショップでは在庫がない物も、店頭では在庫があったりするので、過去の商品が気になる方は是非店頭に足を運んでみてください。
LVMHグループの一員となった、これからの[キャピタル]

今年(2025年1月)にファッション業界で大きなニュースとなったのが、LVMHグループによる[キャピタル]運営会社の株式の過半数取得です。突如[キャピタル]がLVMHグループに仲間入りすることになりました。具体的な金額や時期は公表されていませんが、突然の出来事に驚いたのが正直な感想です。でも思い起こしてみると、[キャピタル]と[ルイヴィトン]は2013年春夏のコレクションでコラボレーションをしています。そこでも先述したBOROスタイルが用いられていたことから分かるように、以前からLVMHは[キャピタル]のモノづくりに注目していたようです。
ファンとしては、ブランドを運営する企業の買収や事実上の経営支配による今後の動向が気になります。ただ、今のところ大きな変化はなく、これまで通りのブランドの世界観が表現されています。個人的にはLVMHグループに加わったことで、より一層海外へ日本のクラフトマンシップや物を大切に使い続ける文化を発信していってほしいと願っています。
今回は日本のクラフトマンシップを発信するブランド[キャピタル]をご紹介しました。改めて時代のトレンドに流されず、日本そして世界の文化を問い入れ発信してきた素晴らしいブランドであることを再認識しました。そして人々の消費行動が大きく変わろうとする時代において、どのようなモノづくりやブランド運営をしていくのか、今後も目が離せないブランドです。



